日常茶飯事<next>26
もうすぐ侑也が迎えに来る時間だな・・・。
由奈はまだ帰って来てないし・・・。


「総ちゃん、晩ご飯はラップ掛けてあるから温めて食べてね。」
「うん・・・。」
あ、ちょっと不機嫌。
ここで侑也と顔を合わせたらもっと機嫌悪くなるな・・・。
「・・・・・わ!?」
「行ってらっしゃいのキス。」
黙って書斎を出ようとしたら、腕を引かれてキスをされた。それも濃厚なのを・・・。



「森崎くん。」
「え?」
小倉!?
これ以上総ちゃんの機嫌を悪くしないように、侑也が来るのを外で待っていたら、小倉に声を掛けられた。
「今日はお店に出る日でしょう?
 私も一緒に行くわ。」
「は?」
「同伴だとバイト料もアップするでしょう?」
あ・・・そういえばそうかも・・・。
「今までそんなこと気にしたことなかった・・・。」
「いいわね、恵まれていて。」
厭味かな・・・厭味だよね・・・。

「・・・・・。」
何を話せばいいんだろう・・・。
侑也早く来てくれないかな・・・。
「そういえば就職先は決まったの?」
確か、前に就職活動してるって言ってたよね。
「うん、今日はその報告にお店に行くの。
 智也くん、随分心配してくれてたから・・・。
それにお店にお邪魔するのも、多分今日で最後になるわ。」
智也のヤツ侑也のことが好きなのに、どうして小倉のこと心配してたんだろ・・・。
智也だって付き合い程度にキャバクラに行っていたみたいだし、小倉だって頻繁に、店に来ていたわけでもないのに・・・。
「どこに・・・。」

「瀬奈お待たせ。」
「澤田くん、私も一緒に乗せて行ってね。」
小倉の就職先を聞こうと思ったら、侑也が来たから聞きそびれてしまった。
どうせ店で誰かが聞くだろうし、どこに就職しようと僕には関係ないけど。





小倉にどうして僕まで指名されるわけ?
いくら同伴で来たからって僕の客じゃないのに!!
「智也くんはこっちでセナくんはこっちね。」
小倉の隣!?
しっかり源氏名で呼ばれてるし。
「小倉・・・じゃないや・・・。
 杏奈さん・・・僕を指名って嫌がらせ?」
昔から小倉には嫌な思い出しかないんだ。
小倉のおかげで何度総ちゃんにお尻叩かれたか・・・。
「おいっ!!セナ!!」
「いいのよ、智也くん。」
「杏奈さんがそう言うんじゃ・・・。」
「それよりね就職が決まったのよ。」
「ホント!?
 おめでとう、良かったね。
 やっぱり出版社?」
出版社?
どうして出版社なんだろ・・・。
てか、智也のヤツ小倉のことに詳しいな。
「そうなの、進来(しんく)社よ。」
進来社って総ちゃんが一番多くの作品を出して、同時に一番多くの印税をもらってる出版社じゃない。
「杏奈さん“中条十夜”のファンだもんね。
あの出版社からいっぱい出てるよね。」
「ぶっ!!」
総ちゃんのペンネームに思わず水割りを吹き出してしまった。
「うわっ!!
 セナ汚ねー!!
 杏奈さん、かからなかった!?」
「ちょっとかかったけれど大丈夫よ。気にしないで。」
「すみません、うちの従業員が不快な思いをさせてしまって・・・。
 セナ、奥に来て。」
侑也が割って入ってきた。
「は、はい・・・。」
奥ってことは・・・やっぱりアレだよね・・・。



小倉、まさか総ちゃんが“中条十夜”て知ってるの!?
小学4年生の一年間しか、小倉はあのハイツに住んでなかったけど・・・。
あの頃は総ちゃんの職業なんて知る由もなかったはずだ。
総ちゃんも、小説家によくある表紙裏の顔写真だって載せていない。
でもサイン会とかに行ってれば知ってるよね・・・。
どういうつもりで出版社に就職なんて・・・。

「・・ナ・・・瀬奈聞いてる!?」
「え・・・あ、ごめん。」
「瀬〜奈〜!!」
物差しを手に、侑也が怒りに震えている。
「ご、ごめん!!ごめんなさいっ!!」
「さっさと尻を出せ!!」
うう・・・やっぱり・・・。
嫌々ながらズボンに手を掛けお尻を出す。

「だって小倉が・・・痛っ!!」
「仕事とプライベートを一緒にしない。」
「わかってるけど・・・。」
「わかってない!!」
「痛いっ!!」
だって小倉が総ちゃんの名前を出すから・・・。

「侑也・・・店長、痛い!!ごめんなさい!!」
物差しってピリピリ痛いんだよね。
「お客さんのクリーニング代、バイト料から引いておくからね。」
「はい・・・。」
だいたい僕の失敗は総ちゃんに言い付けることになってるのに。

「いったぁい!!
 っつ・・・くぅ・・・あぁっ・・・。」
「泣いてもいい・・・いや、泣いてくれたらいいのに・・・。」
「やだ・・・。」
いくら子供の頃からの友達でも、過去に泣いてるところを見られていても、今更侑也の前でなんて泣きたくない。
「おもしろくないなぁ・・・。」
おいっ!!

「もう終わったよ。
 仕事に戻ってくれていいよ。」
「え?もういいの?」
まだ10発くらいしか・・・。
「うん、総司郎さんの分も残しておかないとね。
 あまりやりすぎると跡が残るし、これくらいだとすぐに跡が消えるよ。」
「ええ〜っ!!?
 総ちゃんに言い付けるのに、侑也にまで叩かれて損だ!!」
「たまには言い付けないと、ドジな瀬奈が、ずっと失敗しないわけがないからね。」
ひどい言われよう・・・。

「そういえば小倉さん、就職先決まったんだって?」
「うん、総ちゃんがお世話になってる出版社・・・。
 小倉、総ちゃんのファンみたい・・・。」
「ふ〜ん・・・。
 これ店から小倉さんに就職祝い。俺の奢りな。」
「え・・・あ・・・うん。
 ありがとう・・・。」
て、どうして僕がお礼を言わなきゃならないんだ?



「小・・じゃない・・・杏奈さん。
 これ、侑也・・じゃない・・・店長から就職祝いです。」
「あら、いいの?
 ありがとう。」
「わ、これ店で一番高いワインだ。
 おいしそ〜、いただきま〜す。」
だから、智也にじゃないってば。
「こら、智也。
 まずは杏奈さんからだろ!?
 お客様を差し置いて何をやってるんだ!!」
僕が侑也に呼ばれてる間に、代わりに入ってくれたベテランの将輝(まさき)さんだ。
「いいのよ、注(つ)いでくれたんだし。」
「杏奈さんがよくても俺達はよくないんです。
 智也、お前も奥へ行って来い。」
「はい・・・。」
小倉の前だからかな・・・。
智也はいつも以上に、泣きそうになりながら奥へ行った。

2005年09月12日(月) 11時44分50秒 公開
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