日常茶飯事<next>27
「総ちゃん、お待たせ。」
「ここへ置いといて・・・。」
パソコン画面から目を外す事もなく、仕事をしている机の端を指差した。
「うん・・・。」
なんだ、せっかくゲームを中断してコーヒーを淹れてきたのに。
「あっ!!」
しまった!!
「何やってんの!!」
手が滑って机にコーヒーこぼしちゃったよ・・・。
「ごめん・・・なさい・・・。」
「早く拭いて。」
「う、うん・・・ごめん。」
我に返って、慌ててお盆に載せていた布巾で拭いたけど、薄いからふき取る前に、ノートパソコンの下にまで流れていってしまった・・・。
「故障するじゃない!!」
「ごめんなさい〜。」
またお仕置きされるのかな・・・。
「もうすぐ由奈が帰ってくるから、お仕置きは明日にするよ。」
そんなこと・・・さらっと言わないでよ・・・。
「向こうへ行っていいよ。」
「うん・・・雑巾絞ってくる・・・。」

明日にはお仕置きのことなんて、忘れていてくれたらいいのに・・・。







「・・・奈・・・瀬奈・・・瀬奈。」
「・・・う・・・ん・・・。」
何か・・・遠くで僕を呼んでいるような・・・?
「瀬奈・・・瀬奈、起きて。」
「う・・ん・・・?
 総・・・ちゃん・・・?
 ・・・今・・・何時?」
寝ぼけ眼の僕の目に総ちゃんが映った。
「8時。朝の。」
なんだ・・・まだまだ寝れるじゃ・・・ん?
今日って平日!?
「由奈は!?」
起こすの、忘れてる!?目覚ましは!?
「とっくに起こして学校へやったよ。」
なんだ、よかった。
「じゃあ、もうちょっと寝る・・・。」
「起きろ!!」
「ひゃ・・・寒いっ!!
 な、何すんの!?」
起こそうとしている総ちゃんを尻目に布団にもぐったら、布団を剥がされた・・・。
「由奈は学校に行ったし、お仕置き&#9825;」
なんだか・・・ものすごく・・・嬉しそうに言われてるような気が・・・。
「あっ・・・や・・・ちょっと・・・総ちゃん!?」
まだ半分寝ている僕を、ベッドに腰掛けた総ちゃんが無理矢理膝に乗せた。

「待ってよ・・・。
 やめ・・・やめて・・・総ちゃん!!」
スウェットのパジャマのズボンなんて簡単に脱がされる。
「嫌だってば・・・総ちゃん・・・やめて・・・。」
膝から逃げたくてもがくけれど、目が覚めきってなくて力が入らない・・・。

「いっ・・・痛っ!!痛いっ!!」
何だって寝ているのをわざわざ起こされて、お仕置きされなきゃなんないの!?
「やめて・・・総ちゃん・・・。」
「昨日、コーヒーこぼしたお仕置き。
それと今日寝坊した分。」

「痛い・・・や・・・んっ・・・嫌だぁ・・・痛い〜〜〜っ!!」
「泣きそうな声でかわいい・・・。」
眠いのが先に立っちゃって、声が裏返ってるだけだよぉ!!
「総ちゃ・・・やめて・・・眠いんだってば〜・・・。」
「じゃあ目を覚まさせてあげよう。」
「わぁぁぁ〜〜〜・・・嫌だぁぁ〜〜〜っ!!」
やっぱり強く叩かれるんだ。

「あぁっ・・・痛っ・・・っく・・・。」
なんとか堪えてるけど、そろそろ限界・・・。
「やぁっ!!
 いったぁ〜〜〜いっ!!」
堪えきれず手足をバタつかせる。
「もう、やめてよ〜。」
「ダメ。
 こっちは気になって仕事が手に付かなかったんだからね!!」
何が“気になって”・・・?パソコンが潰れたこと?
「いったぁ〜〜〜!!痛いっ!!」
「何が気になったのか気になるの?
 どんなタイミングで瀬奈をお仕置きしようかな、と考えてたんだよ。」
「そ、そんな・・・。」
「わかったらさっさとお仕置きを済ませよう。
 午後には原稿を取りに来てもらうからね。早く仕上げてしまわないと。」
仕事、まだ終わってなかったの〜!?
「じゃあもう終わってよぉ!!」
おかげで目も覚めたよ・・・。
「まだダメだよ。反省してないじゃない。」
「してるよ〜〜〜!!」
「それが反省してないの!!」
「いっやぁ〜〜〜〜〜っ!!」





痛っ。
Gパンはやめた方がよかったかな・・・。
お尻に密着してるし、摩れるたびに変な痛みが・・・。
両手にスーパーの袋を持ってるから、さするわけにもいかないし。

「森崎くん。」
こ、この声は・・・。
なんとなく前屈みになりながら歩いていたら、後ろから呼び止められた。
「小・・倉・・・さん・・・。」
「重そうね。持ってあげようか?」
「いいよ、自分で持てる。」
何だって女に・・・それも小倉に持ってもらわなきゃなんないんだ。
だいたい小倉に借りなんて作りたくない。
「そう?
 あのね、この辺に“森崎”さんってお宅は森崎くんところだけ?」
「多分ね・・・。
マンションやハイツに住んでる人のことは知らないよ。」
この辺は住宅街で、いくら住民の出入りが少なくてもそこまではわからない。
「まさかとは思うけど・・・。」
「何?」
「“中条十夜”って・・・。」
「ああ、それは・・・って!?
 小倉が原稿取りに来たの!!?」
進来社に就職したって言ってたけど・・・。
「“中条十夜”って森崎なの!!?」
「は?」
どうしてそう結び付くんだよ!?
「ち・・・違うの・・・?」
「僕のわけないじゃない。」
総ちゃんは・・・“中条十夜”は20年以上も作家をしてるのに。
「そ、そうよね・・・。
 森崎のわけがないわよね・・・。」
「それで本当にファンなの?
 サイン会とか行かないの?」
確か智也が『大ファン』とか言ってたじゃない。
「そうよ。
 ファンだけどストーカーじゃないわよ?
 私生活とかなんてどうでもいいのよ。
 私は純粋に作品が好きなのよ。」
「・・・・・。」
「どうしたの?」
「いや・・・そういうファンもいるのかと思って・・・。」
中学、高校の時って、総ちゃんが一番人気あった頃だから、やたらサインとか頼まれたんだよね・・・。
だから、ファンとはそういうものだって思い込んでた。
「“中条十夜”は総ちゃんだよ・・・。」
「あ・・・そっか・・・。
 森崎ん家にはお父さんもいたわよね・・・。」
いつの間にか呼び捨てだし。



「ただいまー。
 上がってよ、その奥の突き当りが書斎だから勝手に入って。」
「え!?
 勝手にって・・・。」
「前の担当さんからは何も聞いてないの?
 勝手に入って持って行ってくれればいいんだよ。
 それに、総ちゃんは担当さんが来る頃には大抵いるから。」
「ついて・・・来てよ・・・。」
「どうして僕が・・・。」
「だって・・・変に緊張してきて・・・。」


「総ちゃん、進来社の担当さん替わったよ。」
「そうなの?」
書斎のドアを開けて小倉を案内する。
「初めまして・・・じゃないけど・・・初めまして!!
 伊藤に替わって先生の担当になった小倉です!!
 宜しくお願い致します!!」
名刺を渡したのはいいけど、反対向いてるよ・・・。
何もそんなに緊張しなくても・・・昔はよく・・・。
よく・・・なんだかんだと総ちゃんに言いつけてたくせに!!

う・・・また嫌なことを思い出した。
そのせいでどれだけ総ちゃんにお尻を叩かれたと思うんだ!!
「ああ、よろしく。
 原稿はこれね。」
「はい!!
 確かにお預かりしました!!」
原稿を受け取って小倉は帰っていった・・・。

2005年09月12日(月) 11時46分03秒 公開
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