日常茶飯事<next>28−1
侑也の経営するホストクラブ『新鮮組』の慰安旅行で北海道に来ている。
3泊4日で、小型の観光バスを貸し切っての豪華な旅。
店員の多くは学生で、この旅行に参加したのは侑也と僕を含め6名。
でも侑也が一緒って理由で総ちゃんは快く思ってないんだよね。
両親のお墓参りもして来るって言って、しぶしぶながら了解をもらった。

僕は大人なのに、どうしていちいち総ちゃんの許可を得ないといけないんだよ・・・。
とっても理不尽だ。





「セナ、ラベンダーのアイスだって。」
智也が目ざとく売店の幟(のぼり)をみつけた。
「智也はさっきから食べてばかりじゃないか。」
将輝さんが半ば呆れ返ったように言う。
「ラベンダーのアイスってトイレの味だよ。」
前に食べた時由奈に言われたんだよね。
「セナ食べたことあるの!?」
そんなに驚かなくても・・・。
もっとも智也以外は大ウケしてるけど。

「わ、ホントにトイレの味だ。」
「智也、それ今日何個目のアイスだ?」
「さっき揚げ芋餅食ってたじゃん。
 揚げ物とアイスは食い合わせだぞ。」
「そんなの気にしないも〜ん。」
背もあまり高くなくて、童顔で実年齢より若く・・・というより、幼く見える智也は外見だけじゃなく、中身までも子供っぽかったんだ・・・。
店でも落ち着きがなくて、よく侑也の犠牲になってるけど、ここまで子供っぽいとは思わなかったよ・・・。
ベテランの将輝さんは僕より2つ上だけど意外とおっさん臭いし、ナンバーワンの利樹くんも、結構普通の男の子って感じだ。
2人とも素顔と店とのギャップが結構あるなぁ・・・。



「あれ?智也は?」
「トイレに行くって言ってましたけど・・・。」
広大なラベンダー畑を散策してバスに戻ったら智也がまだ戻ってなかった。

「遅いな・・・。」
「迷子になってるんじゃ・・・?」
そこまで子供っぽいの!?
だいたい迷路のヒマワリ畑ならともかく、見晴らしのいいラベンダー畑でどうやったら迷子になれるのさ!?

あ、戻ってきた。
「智也、何やってたんだ?置いてくぞ。」
「ごめんなさい、店長。
 トイレに行ったら、裏にキタキツネの飼育場があって・・・。」
「見てたのか?」
「はい。
 ちょうど餌の時間で・・・。」
「智也は来てから毎回集合時間に遅れてるじゃないか。
団体行動をしてるって自覚を持ってほしいな。」
「はい・・・。」
侑也も大変だなぁ・・・。



「あれ?智也は?」
「湖で泳いでるんじゃないっすか。」
これから湖畔で昼食だ。
毎回智也が集合に遅れるから早く食べないと時間が押していて、今後の予定を変更しないといけなくなる。

「ごめんなさい、店長。
 水鳥を見てたら足が滑って・・・。」
本当に泳いでたのか!?
「言い訳はいいから、さっさと着替えて来い!!」
「は〜い。」

「そういえば瀬奈は今回はドン臭くないな・・・。」
「今回はって何!?
 だいたい僕はあそこまでドジじゃないよ!?」
智也と一緒にしないでよ!!
「智也の影で目立たないだけですよ・・・。」
将輝さんが僕の足元を見て言った。
「あ・・・。」
いつの間に・・・。
泥濘(ぬかるみ)にはまったような気がしてたけど、本当にはまってたらしくスニーカーが汚れてる。
「ちょっと洗ってくるね・・・先に行ってて。」
みんなに言わせれば僕は智也と同じくらいドン臭いのかな・・・。





「あ〜あ・・・明日の予定の組み直しをするかな・・・。」
「ごめんなさい・・・店長・・・。」
結局その後も智也の遅刻は直らず、今日予定していたところをすべて回れなかった。
「全くだ。」
ガイドブックを手にしていた侑也が、急に僕の方を向いた。
「瀬奈、外で誰も来ないか見ててよ。」
「え?
 外って・・・ドアの外?」
「他にどこがあるんだよ。」
だよねぇ・・・。

廊下に出てドアにもたれかかるように座り込んだ・・・。

うわ、お尻を叩く音がここまで丸聞こえじゃん。
侑也も何も旅行に来てまでやらなくったって・・・。
6人だから部屋割りがちょうど3人ずつで、僕と侑也と智也が同じ部屋なんだよね・・・。

「セナ、そんなとこで何やってんだ?」
将輝さん達だ。お風呂に行ってたのかな・・・。
「侑也に追い出された。」
「何やったんだ?」
「僕は何も・・・。
 原因は智也くんだよ。」
「「「ああ・・・。」」」
3人とも納得するのが早いなぁ・・・。
「店長、旅行にまで物差し持ってきてるわけ?」
「でもあれ物差しの音じゃないぞ。」
音でわかるなんてスゴイ・・・いや、僕もわかるけど・・・。


「わぁっ!?」
「ああ、悪い・・・。」
ドアにもたれてたら急に開けられた。
「セナ、カッコ悪〜!!」
「やっぱりドン臭いな。」
急に開ける侑也が悪いんだ!!
「俺、風呂入ってくるから智也のこと頼むな。」
「え・・・。」
ちょ・・ちょっと・・・頼むって何を!?
「お仕置き仲間だろ、慰めてやれよ。」
あっけにとられてる僕に、将輝さんが軽く肩を叩いて言った・・・。
「ま、待ってよ・・・。」
僕にどうしろってのさ!?
「店長はセナに“頼む”って言っただろ?」
それはそうだけど・・・。
「じゃあな。」
そんなぁ・・・。



無視するわけにもいかないし・・・。
「智也くん・・・。」
由奈相手じゃないんだから、鼻をかんでやるわけにも・・・。
浴衣もはだけちゃってるよ・・・。
「ティッシュ・・・使う・・・?」
すすり泣いてる智也に、部屋に備え付けのティッシュの箱を渡す。
「・・・・・。」
黙って頷いてティッシュを手に取ったけど、僕としてはすごく気まずい・・・。
この後どうすりゃいいのさ!?
「セナ・・・。」
「な、何!?」
「前に・・・僕が店長のこと・・・好きって言ってたの・・・覚えてる?」
「う、うん。」
「それ・・・店長本人も知ってるんだ・・・。」
「そうなの!?
でも侑也は特定の恋人は作らないって言ってたような・・・。
 あ、いや、その・・・ごめん。」
どうしよう、余計なことまで言っちゃったよ・・・。
「それも・・・知ってるよ・・・。
 でも・・・さっき・・・初めて本名で呼んでくれたんだ・・・。」
「・・・・・。」
どう返せばいいわけ?
「店長・・・店の子は本名で呼ばないんだよ・・・。」
「そうだっけ?」
僕は本名のままだから、どっちで呼ばれてるかなんてわからないよ。
「それに・・・いつも物差しなのに・・・今日は手だった・・・。」
そりゃ、旅行に物差し持って来るわけにいかないじゃん。
「ええ〜〜〜と・・・。」
だから何?
「店長って雰囲気が僕のお父さんに似てるんだ・・・。
 でもお父さんは本当のお父さんじゃなくて、厳しく叱られたことなんてなかった・・・。
 だから店長に“お父さん”を求めてたのかもしれない・・・。」
智也ってファザコンなのかな・・・。
「お父さんって、もともと叱らない人なんじゃないの?」
同じ継父でも総ちゃんとはえらい違いだ。
「杏ちゃんは手を上げることもあった、って言ってたもん・・・。」
「杏ちゃん?」
どこかで聞いた名前・・・。
「お父さんの本当の子供だよ・・・。
 別れた奥さんに引き取られたから・・・僕とは一緒に住んだこともないけど・・・。」
それでもお父さんに子供がいるって知ってるんだから、なんか複雑そうだね・・・。
「それで侑也に叱られたかったの?」
「そうかもね・・・でも叱られたいって変だよね・・・。
 それでも店長に本名で呼ばれて、お仕置きも膝の上だったのが嬉しかったんだ・・・。」
「それ・・・なんとなくわかるよ・・・。」
前に、総ちゃんに無視されるより、怒られる方がいいって思ったもん・・・。
「セナもそう思う?
 僕たち似てるね。」
でも嬉しいとは思わないよ?どこでそう繋がるわけ!?
「僕は智也くんほどドン臭くないよ。」
「それはこっちのセリフだ!!セナの方が絶対ドン臭いよ!!」
「ドン臭いヤツにドン臭いって言われたくないよっ!!」
「絶対セナだよ。
 店長が、店長とセナの悪行の数々を語ってくれたもん!!」
「な、何それ!!いつ!?」
“悪行の数々”って何!?
「前・・・セナにフェラーリ乗せてもらったじゃない。
 あれから暫くたって店長にも乗せてもらったんだ・・・。」
なんだ・・・。
結局侑也に乗せてもらったんじゃない。
「その時いろいろ話したから・・・。
 僕が店長を好きなことも、僕の生い立ちなんかも・・・。
 だから店長も小さい頃のこととかなんかも話してくれたんだ。
 途中からセナのことばっかりになって、ちょっと嫉妬したけど・・・。」
「コクったんだ?」
「・・・・・。」
智也が少し恥ずかしそうに、無言のまま頷いた。
侑也と二人きりになるのは緊張するって言ってたのに、たいした進歩じゃない。
「明日は侑也にくっついて歩けば集合に遅れたりしないんじゃない?」
「でも・・・結構恥ずかしいんだよ・・・。」
「頑張りなよ。」
僕は自分からコクったことないから、“頑張れ”としか言えないけど・・・。
軽く言いすぎかな・・・。
「うん・・・。
 僕の話、聞いてくれてありがとう。」
「僕でよかったらいつでも相談に乗るよ。」
何だか自分がちょっと先輩になった気分。
 






次の日からは、2人きりじゃ恥ずかしいって言う智也のために、侑也との間に僕が入って3人で行動した。

侑也に何気なく智也とのことを聞いたら『マトモに恋愛をしたことのない瀬奈に何がわかる』って言われた。
確かに智也の気持ちはわかっても、侑也の気持ちはわからないかも・・・。
続けて何か言いたそうだったけど、僕がそれ以上何も言わなかったからか、侑也も何も言わなかった。

2005年09月12日(月) 11時47分11秒 公開
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