日常茶飯事<step>番外編−ホワイトロード −
※内容的には日常茶飯事<step>の番外編ですが
日常茶飯事<next>28−1・28−2の番外編となっています





こっちの服がいいかな。
それともこっち?
お父さんに買ってもらったコートはもう小さくなって着れないし・・・。
ううん、コートが小さくなったんじゃなく、私が大きくなったんだけど。
え〜と・・・よし、これにしよう!!



「杏、出かけるの?」
「うん、友達と買い物。」
本当は小学4年生になる前に別れたお父さんに会いに行くんだ。
お母さんはお父さんと会っちゃダメ、とは言わないけど、あまり会ってほしくないみたい。
「気を付けてね。
 あまり遅くならないうちに帰るのよ?」
「は〜い。」

わ、寒いと思ったら雪が降ってる〜。
傘持って行かなきゃ・・・。

この傘でいいかな・・・。
結構近くに住んでるのに、2年振りに会うお父さん。
すぐに私だってわかるように、お父さんに買ってもらったこの傘がいいよね。
本当はお父さんに買ってもらったのは、こっちの壊れてしまってボロボロになった方。
「行ってきま〜す。」
黄色い花柄の傘を手に家を出た。



さっきのボロボロの傘は4年生の時、好きだった男の子に貸して壊されちゃったヤツで、こっちの新しい方は、その子のお父さんが弁償してくれた傘。
ええ〜と・・・“お父さん”でいいのよねぇ・・・?
あの頃は特に感じなかったけど、今思えばロン毛でやけに若かったような気もするけど・・・。
でも“とうちゃん”って呼んでたから、やっぱりお父さんよね・・・?
見かけによらず、すごく厳しそうな感じだった。
だって私の見てる前でお尻叩くんだもん・・・。
今の時代、児童虐待とか言われそうだよ?
私もお父さんにお尻叩かれたけど・・・。
そういうのもお母さんと離婚した原因のひとつなんだよね。
お母さんは体罰反対派だから・・・。何が何でも手を上げることは許せないみたい・・・。

あの子・・・森崎くんはあのまま地元の中学校に進んだのかな・・・。
去年、小学校を卒業した春休みにこっそり覗きに行ったけど、留守だったみたいで遠くから顔を見ることもなく、帰って来ちゃったのよね。
もっとも森崎くんの方は私のこと、嫌いだったみたいだけど。
でも私が素直じゃなかったから、嫌われて当然かも。





やだ、本格的に降って来たじゃない。
電車が止まるくらい降ったらやだな。帰れなくなっちゃう。

でもこれだけ降ってれば、お父さんきっと家にいるよね。
今日は日曜日だから会社は絶対休みだし、お父さんはパチンコとかには行かないもん。

初めて作ったこのチョコ、喜んでくれるかな。
新しい住所も、私の携帯の電話番号も、メールアドレスもちゃんとカードに書いたし、準備は万端。
バレンタインが日曜日でよかった。



あ、この公園懐かしい。
この角を曲がって、ず〜〜〜とまっすぐ行けばお父さんとお母さんが離婚するまで3人で住んでた家があるんだ。
今はお父さんが一人で住んでる。
別れてから来るのは今日が初めて。
庭のさくらんぼの木や、桃の木は枯れずに残ってるかな。大きくなってるかな。

見えてきた。
さくらんぼの木、2階まで届いてる・・・。すご〜い。

家が近づくにつれて、だんだん鼓動が早くなってきちゃった。
ドキドキして緊張しちゃうな。





呼び鈴を押せばいいんだけど・・・。
どう言えば・・・どんな顔して会えばいいのかな・・・。

呼び鈴を押して返事がなかったら?
お父さんがいなかったらこのチョコは?

やだ、押す勇気がなくて考え込んでたら、私が傘を差して立っていた部分だけ雪が積もってないじゃない。
もう辺り一面真っ白になってるのに。

さ、さあ・・・押すわよ!?
お父さん、家にいててね!!

「あの・・・僕のお家に何か用?」
え?“僕のお家”?
この子、どう見ても小学生・・・。
「おねえちゃん、さっきからずっと立ってたでしょ。
 向こうからずっと見えてたんだ。」
確かに公園を曲がったところから一直線だから、丸見えだけど・・・。
「え・・と・・・ここ・・・ここのお家って“龍ヶ崎(りゅうがさき)”さん・・・じゃないの?」
私の前の名前は“龍ヶ崎 杏”だったのよ。
「うん、龍ヶ崎だよ。」
お父さんが家を売って、そこに越してきた人?
でも珍しい苗字だからそんな偶然あるはずない・・・。
親戚にも“龍ヶ崎”はなかった。
ましてや私に弟なんていなかったわ・・・。
「名前・・・。」
お父さんの名前を聞けばわかる・・・。
きっと再婚したんだ・・・。
「僕?僕は龍ヶ崎 大樹(だいき)。背は低いけど4年生だよ。」
「あなたじゃなく・・・お父さんの名前・・・。」
「お父さん?お父さんは龍ヶ崎 秀明(ひであき)。
 でも本当のお父さんじゃないんだ・・・。
 お母さんが夏休みに結婚したの。」
やだ・・・そんなことまで聞きたかったんじゃない・・・。余計なことまで言わないでよ・・・。
でも・・・本当に再婚したんだ・・・。
再婚してるなんて、考えもしなかった・・・。
「お父さんに用があるの?
 家にいるよ。呼んで来ようか?」
「いい・・・。
 呼ばなくていい・・・。」
「おねえちゃん・・・どうしたの?
 どうして泣いてるの?どこか痛いの?」
泣いてるんじゃない・・・。
涙が勝手に出てくるのよ・・・。
「これ・・・あげる・・・。じゃあね!!」
「え?
 あ、待ってよ・・・おねえちゃん!?」





気が付けば、お父さんに渡すはずのチョコを、その男の子に押し付けて走り出していた。



「きゃ・・・。
 いったぁ〜い・・・。これだから雪の日って嫌なのよ・・・。
 もう!!・・・ふぇっ・・・えっ・・・お父さんのバカぁ〜・・・。」
新雪に滑って、転んだまま声を上げて泣き出してしまった・・・。
涙が落ちた部分だけ雪が解けてアスファルトが露(あら)わになる・・・。







暫くしてお父さんから携帯に電話があった。
再婚したことを謝ってたけど、別に謝ることじゃないと思う・・・。
お父さんと、新しい奥さんとその子供・・・大樹くんだっけ?・・・が幸せになったんだから・・・。


2005年09月13日(火) 21時46分15秒 公開
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